読書の記録など

まずは『進化の構造』(ケン・ウィルバー)から。

「存在の大いなる鎖」はいかにして失われてしまったのか?(第1章「生命の織物」より)

存在の大いなる鎖

歴史的に言えばプラトンアリストテレスの時代から十九世紀の終わりにいたるまで、物質圏(フィジオスフィア)、生物圏(バイオスフィア)、心圏(ヌースフィア)の三つの領域は連続した、互いに関連する一つのスピリットの顕現、一つの存在の大いなる連鎖と考えられていた。(p.18)

「すべてはすべてに結びついている」という感覚は、分裂した世界観から世界を救おうとする、現代のエコロジストらに特有の考えではなく、古代から人間がずっと抱き続けてきた感覚のようだ。

では、それはどのようにして失われてしまったのか?

 

物理学と生物学

現代科学の勃興にともなって、この壮大な全体論的な統一された世界観は、ばらばらになってしまった。(p.20)

 

「生命の織物」、「すべてはすべてに結びついている」という世界観を広めようとする人たちが、この時代の科学者、哲学者たちを敵視するのも無理はない。

しかし、それは誰かが悪意をもって分裂させたものではなかった。

物理学と生物学が、それぞれ発見した重要な事実が、一見してまったく噛み合わないものであったことに、この分裂は起因する。

 

1、物理学における「熱力学の第二法則」・・物理現象はつねに秩序ある状態から無秩序の状態に向かう。(例:インクを一滴水のなかに垂らすと、インクは水全体に散逸する)

2、生物学における「進化論」・・非可逆的に、差異化/統合の増大、構造的な組織化と複雑性を増大させる (例:アメーバはやがてサルになるかもしれないが、サルがアメーバになることはない)

→「停止に向かって行く力学的世界」と「進行を続ける有機的世界」との超え難い矛盾

 

この混乱の副産物:心身問題

生命と物質の分裂

→「心」をどのように位置付けるか、さらなる混乱が生じる

 

苦し紛れの試みの例

物質還元主義:すべての心、生命を、物質と力学の世界に還元しようとする

現象論:すべての物質や生命を、心の現象であるとする

デカルト心身二元論

スピノザの汎神論

ハックスレーの付帯現象説

 

以上のような混乱から、「事実」と「価値」の分離「自然科学」と「人間科学」の分離もまた、起こった……

 

20世紀後半におきた再統合

複雑性の科学」の登場

物質は、ある状況のもとでは自分たちをもっと秩序ある、もっと複雑でもっと高度な組織へと「進ませる」のである。(p.27)

例:排水口から流れ出る水が、突然、混沌とした状態を止め、完全な漏斗の形を作り、渦巻きを形成する。

物質に「自分を進ませる性質」があるからこそ、生命という複雑な自己組織が登場することができた。

 

この性質の発見により、かつては解決不能だった物質圏(フィジオスフィア)と生物圏(バイオスフィア)の裂け目が、閉じ始めた。

ここに、「存在の大いなる連鎖」の復活を見ることができる。

 

この本はどんなふうに書かれたか。(序論より)

ウィルバーが、「最も困難な試みだった」と振り返る『進化の構造』の執筆。

彼は、どんなふうにしてこの本を書き上げたのか。

 

あの本(『進化の構造』)を執筆するのには三年かかりました。非常に辛い年月でした。(……)三年間、(……)私は本当に世捨て人になったのです。実際、食料品の買い出しなどからも遠ざかり、三年間はきっかり四人の人としか会いませんでした。あれは伝統的な三年間の黙想に非常に近かったと思います。あれは私がそれまで行った自発的な試みの中でも、ずば抜けて最も困難なことでした。『ワン・テイスト——ケン・ウィルバーの日記

・上』p.201

 

「志向的・一般化 orienting generalization」という方法(p.4-5)

・さまざまな知の分野から大きな合意点を求め、それを数珠のようにつなげてゆく

・木の数には同意しなくても、森を見ることができる

・すでに十分な一般的合意がなされている知をつなげていくことにより、驚くような、とても深い結論に達することができる

 

 

何かが——あらゆることが——起こっている 

偶然のように見えるドラマの背後に、より深く、より高度な、より広いパターン、秩序、知性がある。「もののはずみ」とはまったく違う何かが……。

本書はこの「何か別のこと」についてのすべてである。(p.1-2)